日本と建設業界の未来

2024年の4月で2019件からの猶予期間5年が終わり、45時間の残業制限が建設業でも適用されることとなった。

残業上限規制
・月45時間
・年間 360時間

これによって何が起こるのか。 残業ができないので工期が伸びるのは誰でもわかる問題だが そんな単純な話では片付かないように思う。

コストの問題

工期が長くなるとそれを維持管理するコストも当然増える。さらに問題になるのが物価の上昇である。
例えば、フラクタル建設は大きな都市計画工事を受注したとする。
2017年に計画開始、2020年に着工、2025年の完成を目指す工事だ。 この工事の見積もりは2018年頃には行われ、その見積もりの結果、工事にかかる総費用は1000億円となった。 1200億円で受注し、20%程度の利益がでる見込みだ。 ところが、ご存じの通り、物価、原材料価格、および賃金は2017年から右肩上がりで上昇している。2017年に1000億円だった費用は2024年現在では大きく膨らみ、1500億円の見通しになった。 さらに、2024年の残業上限の規制により、2025年完成予定だった工事は、2027年完成に伸びることとなった。 2025年→2027年への工期延長で、さらなる物価上昇と賃金上昇などの影響を受け、2027年に完成したときの総費用は1700億円となった。 10年をかけたプロジェクトで500億円の赤字である。

※国土交通省のページから様々な情報を見ることができるので確認してみてほしい。上記は一部抜粋である。

これが建設業における現在の問題のひとつである。 材料の高騰、賃金の上昇を受け、工期が伸びるとどんどんと利益があっぱくされてしまう。 材料が今後どのような値上がりをするか予測して見積もりをすればいいと思うかもしれないが、数年後の建築資材の相場が読めるのであれば それを仕事にした方がいいだろう。 大きな値上がり幅を持たせて見積もりを出せば、ほかの業者の見積もりよりも高くなりそもそも受注ができず、策がない。

人材の問題

今建設業で働いている人は誰なのか。街中で建設をしているところを通ったらよく見てみてほしい。 若い人たちがたくさんいて、にぎやかにしている現場があるだろうか?国土交通省によると建設関係に従事いている方の割合は、55歳以上が約40%、30歳以下は約10%という結果である。

日本全体で高齢化が進んでいるとはいえ、ほかの業種と比べても明らかに年齢層が高い、どんどん高くなっていっている。 残業時間の規制による工期の延長が行われると高齢化はさらに加速し、退職者が増え、残業時間の課題の前に人材が確保できなくなってしまう。 そうするとさらに工期は長くなってしまう。それに加え、人が足りなくなると人材確保競争が始まる。 みんなが欲しいけど手に入らないものの値段が上がるのは世の常で、コロナ禍で任天堂スイッチやプレーステーション5がプレ値になったように 需要と供給のバランスが崩れると値段が高騰する。それはモノだけでなく、人材でも同じだ。貴重な人材を確保するためには給料を上げなければならない。 給料を上げると建築コストが上がる。どうしても費用を抑えることができない。

今起きていること

日本の大手ゼネコン5社のうちの1社、清水建設。1962年の上場以来ずっと黒字の企業である。ところが2024年3月期連結業績予想を修正し、本業のもうけを示す営業損益を575億円の黒字から330億円の赤字に引き下げた。つまり約900億円の下方修正ということになる。この下方修正に関しては上記の問題だけでなく、様々な要因が織り込まれているが、結果として赤字になったことは事実であり、何もしなければ上記の要因によりさらに悪化していくことは間違いない。もちろん何もせずに静観するようなことはないので、このまま業績悪化していくといったような単純な未来にはならないが、清水建設のみでなく、スーパーゼネコンと言われるような建設業でもこのような状態なので、このスーパーゼネコンの下請け企業がもっと苦しむことになるのは想像に難くない。2023年の建設業の倒産件数は1600件を超え、おそらく今後もっと増えていくことになる。

未来のコントロール

現在の若者たちが建築業界を全く目指していないということも大きな課題である。さまざまな情報が子供のときから手に入るようになった現在の日本で、多くの優秀な若者たちは肉体労働ではなく、頭脳労働の分野を選んでいる。プログラミングやwebなどITの分野に進む若い人が多い。おしゃれなオフィスで自分のお気に入りの服を着て、楽しくランチを食べ、高額な給料を手にする。そんなロールモデルを見て育ち、憧れ、そこを目指していく。
今の子供たちにしたらそういう未来を目指すのは夢ではなく、現実的な将来像で、至極当前のことだろう。そしてこれからの日本を支えていく上で、頭脳は大きな武器になることは間違いない。資源を加工するような製造業の限界はもう見えている。日本が再び時価総額の上位を独占するような国に返り咲くためにはAIやロボット、ナノテクノロジーなどの分野で世界をリードする必要がある。建築業に優秀な人材を大量に投入しても世界的に見て日本のポジションが向上する未来は見えてこない。かといって、インフラを支えている建設業が脆くなってしまうと発展できるものも発展しない。土台あってこそのテクノロジーである。若者が職業を選択するのは自由なので、職業バランスをコントロールすることなどできないが、建築業にも魅力があれば人材は流入してくると思う。日本の若者人口が減っていくことは確実なので、国策として、人材配分をコントロールするアイデアも必要かもしれない。

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